賢者になれる知識を持ちながら、
賢者への道を選ばなかった大賢者の小話

賢者になれなかった大賢者

 

私は憲兵所へ連絡をするか、親友へ連絡するかで迷っていた。

実はこういうことになる。
魔術学会へ発表する予定だった古代魔術の研究が、
助力をしてくれた親友に全て盗まれてしまったのだ。
30年研究し続けた全く新しい理論が、やっと形になった矢先のことだった。

親友が魔術学会の場で発表する日は明日だ。それまでに私は決断しなければいけない。

憲兵所に事情と証拠を伝えれば、親友は身分と居場所を失い街を追放されるだろう。
それとも親友に賛辞でもおくればいいのだろうか。研究が認められれば賢者になれる。
ただの魔術師の私に、賢者になる彼はなんと言葉を返すのだろうか。

もうすぐ日が暮れる。
決断の時は来たのだ。

その夜、私は親友の家を訪ねた。

「おめでとう」

親友はそっと、私に金貨の詰まった袋を握らせた。

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